公開日 2019年02月20日
更新日 2020年04月02日
みなさんはILC(国際リニアコライダー)を知っていますか?
東北では、地域の産学官によるILC推進組織の他、岩手県や県南市町などでも誘致に向けた活動を展開しています。
最近、ニュースなどで取り上げられることも多くなったILCですが、実際のところ、いったいどんな施設で、みなさんの生活にはどんな影響があるのか考えたことはありますか?
ILCとは何か
ILCは、宇宙の起源と素粒子の謎を解明する大規模な直線の加速器で、世界の素粒子物理学研究の最先端施設として世界にひとつだけ建設されます。建設費は加速器本体で約5000億円、建設地が決定すれば完成は2020年代後半となります。もし誘致が実現すれば世界中の研究者が集まる国際研究施設が我々の住む東北に建設されることとなります。
ILCで調べる素粒子とは何だろう
素粒子とは宇宙で一番小さいもの。分子や原子よりも小さく、人間の体も素粒子が集まってできています。138億年前に「ビッグバン」という爆発で宇宙が誕生し、その際にたくさんの物質が生まれたと言われていますが、実は今わかっている物質はそのうちたったの5%に過ぎません。ILCでは電子と陽電子を加速器によって高エネルギーでぶつけることで宇宙が生まれた頃を再現し、新物質の発見や宇宙誕生の謎に迫る実験を行います。
加速器とはどんな装置か
それでは、加速器とはなんでしょうか。加速器とは、電子を帯びた粒子を加速させエネルギーを高めるために必要な装置です。光の速さまで加速させた電子と陽電子を衝突させる装置である加速器は、大きな魔法瓶のような構造になっています。最先端技術のかたまりである加速器は、欧州の円形加速器CERN(セルン)が有名で、日本では茨城県つくば市や兵庫県佐用町にもありますが、東北の北上山地に計画されているILCは全長20kmもあり直線型加速器としては世界最大です。
【写真】高エネルギー加速器研究機構KEK(茨城県つくば市)の測定装置「BelleⅡ(ベル・ツー)測定器」
研究結果は何に使われるのか
加速器技術の応用範囲は広く、未来の暮らしに大きく役立ちます。
粒子線がん治療、X線透視装置や新薬の製造などの医療分野、次世代通信機器といった情報通信、新交通システム、次世代カメラなど、身近なものにも多く使われています。
どうして東北なのか
東北の北上山地の地下には、強固な岩盤「花崗岩」が50㎞に渡って続いており、活断層もありません。ILCの実験では、電子と陽電子を正確に衝突させる必要があるため、振動が少ない固い地盤が適しており、そのような地盤が長く続く北上山地は、好条件の揃った世界屈指の場所なのです。
もし誘致が実現したらどうなっていくのか
誘致が実現すれば、ILCに関わる研究者や技術者が世界中から東北に集まってきます。研究が始まれば、研究者とその家族が暮らすようになり、多文化が共生する国際都市が作られます。身近な場所に「知の拠点」とも言える場所が形成されることは、子どもたちの知的好奇心を刺激し、夢を与えることになるでしょう。
また、世界中の企業がILCの技術を活用するために東北に進出します。地元の企業も、ILCの装置や機器の開発に携わり世界で活躍していくことが予想されます。ILCでは研究者の他にも、機器メンテナンス、IT関連に携わる人や飲食店など、たくさんの雇用を生むことにもなるでしょう。
良いことばかりではない?ILCの影響
ILCが建設されることで、国際的な研究都市ができ、多くの雇用も生み、地元企業も活躍することを説明しました。今の子どもたちが世界に羽ばたく研究者となるかもしれません。
しかし、建設に伴い、様々な影響も考えなければなりません。
世界が協力するILCですが、もし日本に建設されることになった場合、建設費用約5000億円の半分を日本が負担することが予想されています。
ただし、この金額には研究所の建物やそこに通じる道路、研究者が住む建物、その他関係施設の建設費用などは含まれず、国でもILC建設にかかる巨額な費用を賄う財源のめどがまだ立っていません。
自然環境への影響や、地震や実験に関わる事故にも不安があるでしょう。
建設にあたっては、貴重な動植物の生息地を避けるとともに、自然環境調査を実施し、影響は最小限にとどめることとしています。
また、固い岩盤の地下深くに作られるため揺れの影響は少なく、地震が発生すれば運転はストップします。その他実験中の事故への対応も万全であり、安全への配慮は十分に措置されるものとなります。
研究が終わったらどうなるのか。核廃棄物の処理施設に使われるのではないか?といった話も聞きます。
たとえ現在見込まれる研究が終わっても、設備が不要になったり、研究者がいなくなったりすることは考えられません。新たな実験の必要が出てくるかもしれませんし、新たな疑問にぶつかるかもしれません。
実際、欧州のCERN研究所は運用開始から60年以上が経ちますが現在も稼働しています。
ILCは、日本はもちろん世界の国々から集められたお金で作る施設であり、長年に渡り大事に使われていくでしょう。
核廃棄物処理施設になることもありません。そもそもILCのトンネルの深さや構造は核廃棄物を処理する施設には適しません。
町で行っている取組
昨年度に引き続きILC出前講座を実施。希望のあった小学校2校で5年生を対象とし、霧箱実験(放射線の飛跡を観察する実験)を通じてILCについて学びました。
今年度は、初めて町民向けの視察研修を実施。15名の参加者と職員で、茨城県つくば市にある加速器研究所KEKを視察してきました。
以上、ILCの概要や建設に関わるあれこれを説明しましたが、みなさんはどう感じたでしょうか?
ILCが誘致され、国際研究都市が私たちの住む東北にできるかどうかはまだわかりません。しかし、ILCとは何か、何を研究し、何に使われるのか、また自然環境への影響や安全面など、今から知っておかなければならないことはたくさんあります。
人類の技術の進歩は目覚ましいものがありますが、それは研究者の努力だけで成しえたものではありません。周囲の理解や、研究をするための十分な設備といった研究を支える環境があったからこそ、結果を出し、私たちの現在の便利な暮らしがあるのです。
本記事を読んで、ILCについて「知る」きっかけとなりましたら、ご家族や友人とも話題にし、未来を想像してみてはいかがでしょうか。